カタール市場への進出を検討している日本企業の担当者にとって、現地の規制当局と許認可手続きの全体像が把握できないまま進めた結果、想定外の障壁に直面するケースがあります。特に医薬品・化粧品・食品といった製品カテゴリーを持つメーカーにとっては、どの規制当局に何を申請すればよいのかという入口の段階で判断が難しい状況があります。
カタールは一人当たりGDPが世界トップクラスの水準にあり、2022年ワールドカップ開催以降も大規模なインフラ投資と外資誘致が続いています。会社設立の枠組みも複数用意されており、業種・目的によって最適な参入経路が異なります。本記事では、カタール進出に関わる主要規制当局の役割・所管領域、そして実際の許認可手続きの流れを体系的に整理します。
こんな方にオススメ
- ●カタールへの製品輸出・現地法人設立を検討しているメーカーの海外事業部担当者
- ●医薬品・化粧品・食品・医療機器分野でカタール市場への参入を模索している経営者
- ●中東進出を支援するコンサルタント・士業で、カタール規制体系の基礎情報を必要としている方
この記事を読むと…
- ●カタールの主要規制当局(MOPH・MOCI・QFC・IPA Qatar)の役割と所管領域が整理できる
- ●業種・目的別に最適な参入経路と許認可の手順が把握できる
- ●外資規制の実態と、外資100%保有が可能な条件・スキームが理解できる
カタール市場の基本情報と外資参入の現状
カタールは面積が秋田県ほどの小国ですが、豊富な天然ガス・石油資源を背景に、一人当たりGDPは国際機関の統計によると世界最上位グループに位置し続けています。人口の約85〜90%を外国人労働者が占める構造を持ち、外資系企業や外国人消費者を前提とした市場が形成されています。
ワールドカップ後のカタール経済と外資誘致の流れ
2022年のFIFAワールドカップ開催を機に、カタールは国際的な知名度とインフラ整備水準を大幅に向上させました。現地の報道や政府発表によると、スタジアム建設を含む関連インフラへの投資総額は数百億ドル規模に達したとされています。ワールドカップ後も「カタール・ナショナル・ビジョン2030」に基づく経済多角化政策が継続しており、エネルギー依存からの脱却を目指して外資系企業の誘致が積極的に進められています。
日本企業にとって注目すべき点は、外国人投資促進法の改正により、一部の業種では外資100%保有が認められるようになった点です。従来はカタール人パートナーが51%以上の株式を保有する合弁形態が原則でしたが、現在は認可取得を条件に外資単独での事業展開が可能なケースが増えています。ただし業種によって条件が異なるため、個別確認が必要です。
中東ビジネスでは現地パートナーとのJV(ジョイントベンチャー)構築が依然として有効な進出形態である場合も多く、規制面の整理だけでなく信頼できるパートナー選定が成否に影響します。
カタールの主要規制当局の全体像
カタールで事業を展開する際には、複数の規制当局との関わりが生じます。会社設立・登記を所管するMOCI、医薬品・化粧品・食品・医療機器を所管するMOPH、金融・サービス業向けの特別枠組みを提供するQFC、外資投資促進を担うIPA Qatarが主要な関係機関です。業種と進出形態によって、どの機関と向き合うかが変わります。
下表に各機関の所管領域をまとめます。
| 規制当局 | 英語名・略称 | 主な所管領域 | 日本企業との主な関わり |
|---|---|---|---|
| 保健省 | MOPH(Ministry of Public Health) | 医薬品・食品・化粧品・医療機器の登録・認可 | 製品輸出・販売に際する製品登録申請 |
| 商業工業省 | MOCI(Ministry of Commerce and Industry) | 会社設立・商業登記・商標・競争政策 | 現地法人・支店設立の主要窓口 |
| カタール金融センター | QFC(Qatar Financial Centre) | 金融・サービス業向け特別法的枠組み | コンサル・IT・金融関連での外資100%設立 |
| 投資促進局 | IPA Qatar(Investment Promotion Agency Qatar) | 外資投資誘致・優遇制度の窓口 | 投資認可・インセンティブ申請の入口 |
外資規制の基本構造と近年の緩和動向
カタールの外資規制は、外国投資法(Law No.1 of 2019)に基づいています。この法律の施行により、従来の「外資最大49%」という制限が緩和され、戦略的分野として認定された業種では外資100%保有が可能となりました。ただし「戦略的分野」の具体的な範囲は政府の判断に委ねられており、事前確認が必要です。
一方、土地の取得・保有については別途制限が存在し、外国企業が自社名義で土地を取得できるエリアは限定されています。製造拠点の設置を検討する場合は、工業地区や自由貿易区の活用が選択肢となります。
CAUTION
外資規制の解釈・運用は政府の政策判断によって変わる場合があります。進出検討時には、現地の法律事務所または公認代理人を通じた最新情報の確認をお勧めします。本記事の情報は2026年時点の一般的な情報をもとに整理しています。
MOPH(保健省):医薬品・化粧品・食品・医療機器の許認可手続き
目次
日本企業がカタールに製品を輸出・販売する場合、製品カテゴリーによってはMOPH(Ministry of Public Health)への製品登録が必須となります。特にサプリメント・化粧品・医薬品・医療機器を扱うメーカーにとっては、この手続きが市場参入の最初のハードルとなります。
MOPHの組織構造と申請窓口
MOPHはカタール国内で流通するすべての医薬品・健康食品・化粧品・医療機器の品質管理・安全審査を担う政府機関です。その中でも医薬品・化粧品の登録審査を行う部門としてDrug and Chemical Control Department(DCCD)が主要な窓口となっています。申請はMOPHの公式ポータルサイト「Drug Portal」を通じてオンラインで行うことが基本とされており、現地代理人(Local Agent)の登録が申請の前提条件となります。
現地代理人制度は中東各国に共通する仕組みですが、カタールでは代理人の選定がその後の審査の進行に直結します。代理人はMOPHに登録済みの法人または個人である必要があり、製品カテゴリーごとに専門性の高い代理人を選ぶことが望ましいとされています。
化粧品・サプリメントの製品登録手順
化粧品(Cosmetics)の登録は、一般的にMOPHのDrug Portalへの申請から始まります。提出が求められる主な書類には、製品の全成分リスト(INCI表記)、製造国での販売許可証(Certificate of Free Sale)、GMP適合証明書、安全性評価データ、ラベルドラフト(アラビア語・英語)などが含まれます。審査期間は製品の種類・申請内容によって異なりますが、一般的に数カ月から1年程度を見込む必要があるとされています。
サプリメント・健康食品については、MOPHの中でも「Food Safety Division」が管轄し、化粧品とは異なる評価基準が適用されます。成分の安全性・栄養成分表示・ハラル対応の有無も審査の対象となるため、イスラム市場向けの製品開発段階からこれらの要件を設計に盛り込むことが重要です。
- 製品の全成分リスト(INCI表記または現地規格準拠)
- 製造国当局発行の販売許可証(Certificate of Free Sale)
- GMP(Good Manufacturing Practice)適合証明書
- 製品安全性評価データ・皮膚刺激テスト結果(化粧品の場合)
- アラビア語・英語表記のラベルドラフト
- 現地代理人委任状(Power of Attorney)
- ハラル認証書(対象製品の場合)
医薬品・医療機器の登録と求められる対応
医薬品の場合、MOPHによる審査はさらに厳格で、国際的な規制基準(ICH、WHO-GPP等)への適合が求められます。日本の厚生労働省による承認・製造販売承認を取得済みの製品でも、カタールMOPHへの個別申請は必要で、審査が二重になる点に注意が必要です。
医療機器については、製品のリスク分類(Class I〜III)に応じて提出書類と審査の深度が変わります。Class I(低リスク)製品は届出に近い形での登録が可能な場合がありますが、Class III(高リスク)製品では臨床データや海外規制当局の承認状況の提出が求められます。日本企業の場合、PMDAの承認取得状況・CE マーキングの有無が審査の参考資料として機能することがあります。
POINT
ハラル対応は中東市場全体で重要ですが、カタールでは国家的なハラル基準(Qatar General Organization for Standardization, QS)が存在します。食品・サプリメント・一部化粧品ではハラル認証の取得が事実上の市場参入条件となるため、製品開発の段階から意識することが求められます。
MOCI(商業工業省):会社設立と商業登記の手続き
カタールで現地法人や支店を設立する場合、MOCI(Ministry of Commerce and Industry)が主要な窓口となります。製品を販売するだけでなく、現地で継続的な事業活動を行う場合は商業登記が必要で、この手続きを経て初めて法人格を持った事業体として活動できます。
会社形態の種類と外資の選択肢
カタールで外資企業が選択できる主な会社形態には、有限責任会社(WLL)・支店(Branch)・代理人事務所(Representative Office)があります。WLLは最も一般的な形態で、株主を2〜50名とする中小規模の事業に適しています。外国投資法の改正後、認可を受ければ外資100%のWLL設立が可能ですが、業種によってはカタール人株主の参加が依然として求められます。
支店は親会社の事業を現地で継続する形態で、独立した法人格を持ちません。代理人事務所は市場調査・連絡業務のみを目的とした形態で、商業活動は原則として認められていません。日本企業が製品販売・顧客対応を行う場合は、WLLまたは支店形態が基本的な選択肢となります。
商業登記に必要な書類と手続き期間
MOCI経由の商業登記では、定款(アラビア語)・株主の身分証明書・資本金払込証明・賃貸契約書(オフィス所在地の証明)などが主要な提出書類となります。書類はアラビア語での提出が原則であり、日本語書類には公的翻訳と公証が求められます。手続き期間は一般的に1〜3カ月程度とされていますが、業種・書類の不備・関係省庁との調整状況によって延長する場合があります。
近年はMOCIのオンラインポータル(Sijilat)を通じた電子申請が進んでおり、手続きの一部はリモートで対応できるようになっています。ただし署名・認証が必要な書類については現地代理人または直接渡航での対応が必要です。
- 事業目的(Activity)の記載が狭すぎて、後から業務拡大の際に追加登録が必要になる
- 定款のアラビア語翻訳の精度が低く、審査段階での差し戻しが発生する
- オフィス賃貸契約の締結タイミングが早すぎ、登記完了前に費用が発生する
- 資本金要件(業種によって最低資本金が異なる)を事前確認せずに手続きを進める
ビザ・労働許可と商業登記の連動
カタールでは商業登記の完了が、従業員・駐在員のビザ(就労許可)取得の前提条件となります。現地法人設立後にMOI(Ministry of Interior)を通じた就労ビザの申請ができるようになり、日本人駐在員の派遣も可能になります。ビザのスポンサー(雇用主)は設立した現地法人となるため、法人設立と人材配置の計画を並行して進めることが重要です。
QFC(カタール金融センター):サービス業・コンサル系企業向けの参入枠組み
金融サービス・コンサルティング・IT・プロフェッショナルサービスを主事業とする企業にとって、QFC(Qatar Financial Centre)は特別な参入経路の一つです。QFCはカタール国内の通常の会社法とは独立した法的枠組みを持ち、英国法をベースとした規制体系のもとで外資100%保有が認められています。
QFCの特徴と対象業種
QFCの特徴は、法人税率・会計基準・紛争解決制度がカタール通常法と独立している点です。一般的に法人税率は固定の低税率(QFCルールに基づく)が適用されるとされており、海外送金も原則として自由です。
対象業種は金融・保険・コンサルティング・法律・会計・IT・メディア・教育など、いわゆる「知識集約型産業」が中心です。製造業や商品輸入・販売を主とする企業にはQFCは基本的に適用されません。
QFC内で設立された法人はQFC独自のライセンスを取得し、QFC Regulatory Authority(QFCRA)の監督下に置かれます。金融サービスを提供する場合はQFCRAの追加ライセンスが必要となりますが、コンサルタントやプロフェッショナルサービス企業であれば比較的シンプルな手続きで設立できます。
QFC設立の手続きと通常MOCI登記との違い
QFCでの設立手続きは、QFCポータルを通じたオンライン申請からスタートします。ビジネスプランの提出・事業目的の審査・役員情報の提出などが求められますが、書類の多くが英語対応であり、アラビア語の書類作成負荷はMOCI登記と比べて低い傾向があります。審査期間は概ね数週間〜2カ月程度とされています。
MOCI登記との最大の違いは、カタール人パートナーなしで外資100%設立が可能な点です。日本企業が自社単独での現地拠点を設けたい場合、事業内容がQFC対象業種に該当するのであれば、QFCが選択肢となります。ただしQFC法人は基本的にカタール国内向けのサービス提供を主とするため、製品の製造・輸入販売を主業とする場合はMOCI登記との使い分けが必要です。
QFCを活用した中東市場展開の事例パターン
活用パターンとして多いのは、「QFCで現地コンサルティング・営業拠点を設立しつつ、製品販売はMOCI登記の現地代理店経由で行う」という二段構えの形態です。これにより、プロフェッショナルサービスの提供と製品販売を分離して管理できるため、コンプライアンス上のリスクを低減できます。
また、カタールをGCCグループ(湾岸協力会議加盟国:サウジアラビア・UAE・クウェート・オマーン・バーレーン)の地域ハブとして位置付け、QFC拠点からGCC全域の営業・コンサル活動を展開するという戦略を取る企業もあります。ただしGCC域内の貿易・規制体系はカタール以外の各国でも個別対応が必要であり、ハブとしての機能には現実的な限界もあります。
IPA Qatar(投資促進局):外資投資認可と優遇制度の活用
カタール政府が外資誘致の窓口として設置したIPA Qatar(Investment Promotion Agency Qatar)は、外国企業の投資認可・優遇インセンティブの申請を担当する機関です。外資100%での現地進出を希望する場合、IPA Qatarへの申請と認可が手続きの起点となるケースがあります。
IPA Qatarの役割と外資100%認可の条件
IPA Qatarは許可機関であるだけでなく、進出を検討している外国企業に対して市場情報の提供・関係機関とのコーディネート・手続きのサポートを行う役割も担っています。日本企業が外資100%での投資認可を求める場合、IPA Qatarに事業計画書・投資規模・雇用創出計画などを提出し、審査を受けます。
認可の条件は公表されている明確な基準があるわけではなく、投資規模・地域貢献度・カタール人雇用への寄与・技術移転の可能性などが総合的に判断される傾向があります。エネルギー・建設・IT・医療など、カタールが重点分野と位置付ける領域での投資は、優先審査を受けやすいとされています。
投資優遇措置と税制上の特典
IPA Qatarを通じた認可投資案件には、一定の優遇措置が提供されることがあります。カタールは一般的にGCC諸国の中でも事業環境が安定しており、外資への課税については通常の法人税率(一般的に10%とされています)が適用されますが、投資認可を受けた場合の免税期間や特別条件については個別交渉の余地があります。
また、カタールには個人所得税がなく、労働者・駐在員にとっての可処分所得が高いという特徴があります。これは外国人を含む人材を確保しやすい環境であり、現地拠点の立ち上げにあたって人材採用のハードルが低い点もメリットの一つです。
IPA Qatarへのアクセスと初期相談の進め方
IPA Qatarは公式ウェブサイト(invest.gov.qa)を通じた問い合わせフォームやオンライン相談に対応しています。ドーハに直接渡航しての対面ミーティングも可能で、初期段階では事業概要・投資規模・進出形態の方向性を共有するインフォーマルな相談から始めることができます。
日本とカタールの間にはジェトロ(JETRO)のドーハ事務所も存在しており、現地事情の情報収集や関係機関との橋渡し的な支援を受けることが可能です。ただし実務的な許認可手続きについては、カタールの法律事務所や公認コンサルタントの活用が現実的です。
許認可手続きの実際の流れ:業種別の進め方
規制当局の概要を把握したうえで、ここからは業種・目的別に許認可手続きの現実的な進め方を整理します。カタール進出の実務では、複数の手続きを並行して進めるケースが多く、全体のスケジュール管理が重要な課題となります。
化粧品・サプリメント・食品メーカーの場合
化粧品・サプリメント・食品を扱うメーカーの場合、手続きは概ね「現地代理人の確保 → MOCI商業登記または現地代理店の選定 → MOPH製品登録申請 → 販売開始」という流れになります。特に製品登録の審査期間が長くなりがちであるため、会社設立と製品登録を並行して進めることが時間の短縮につながります。
- 1現地代理人・エージェントの選定
MOPH・MOCIに登録済みの現地代理人を選定します。業種・製品カテゴリーに精通した代理人を選ぶことが後続手続きの進行に直結します。
- 2製品の現地規格・ハラル対応確認
カタール規格(QS)との整合性・ハラル認証の要否を確認します。対象製品の場合は日本国内での認証取得または現地認証機関での審査申請を並行して進めます。
- 3MOPH Drug Portalへの製品登録申請
必要書類を整備し、代理人を通じてMOPH Drug Portalに申請します。書類不備による差し戻しが多いため、事前の書類チェックを徹底することが重要です。
- 4MOCI商業登記(または現地代理店経由の販売)
自社での販売を行う場合はMOCI登記が必要です。現地代理店に販売を委託する場合は、代理店との契約内容(テリトリー・独占権・マージン)を慎重に交渉します。
- 5輸入通関・カスタムズクリアランスの準備
カタール税関(Qatar Customs)での通関に必要な書類(インボイス・パッキングリスト・原産地証明・MOPH登録番号等)を準備します。
製造業・B2B事業者の場合
製造業やB2B事業者の場合、現地製造拠点の設置か輸出対応かによって手続きが大きく分岐します。現地製造を検討する場合は、カタール工業地区(Mesaieed Industrial City等)への工場立地・環境許可・MOCIの工業ライセンス取得が必要となります。一方、日本からの輸出対応の場合は、MOCI登記の現地代理店との契約と輸入通関対応が中心になります。
B2B事業者がカタール政府系機関や国営企業を顧客とする場合は、入札参加資格(Vendor Registration)の取得が別途必要なケースがあります。主要な国営企業(Qatar Petroleum、Qatar Foundation等)はそれぞれ独自のベンダー登録制度を持っており、事前登録なしでの入札参加は基本的に認められていません。
コンサルティング・IT・サービス業の場合
コンサルティング・IT・プロフェッショナルサービスを主事業とする企業は、前述のQFC設立が選択肢の一つです。QFC設立後、現地での営業活動・サービス提供が可能となりますが、就労ビザの取得・駐在員の現地派遣は設立完了後のMOI手続きが別途必要です。QFCは設立手続きが比較的シンプルである一方、カタール国内向け以外の商業活動には制限があるため、事業モデルとの整合性を事前に確認することが重要です。
進出前に確認しておくべき実務チェックポイント
規制当局と手続きの全体像を理解したうえで、実際に動き出す前に確認しておくべき実務上のポイントを整理します。これらを見落とすと、後工程で大きな遅延やコスト増加につながるリスクがあります。
現地パートナー・代理人選定の重要性
カタールに限らず中東市場全般に言えることですが、現地パートナーや代理人の質が参入の成否を左右します。単に書類提出を代行するだけの代理人ではなく、規制当局とのパイプ・業界ネットワーク・リアルタイムの規制情報を持つパートナーを選ぶことが重要です。契約締結前に複数候補との面談を行い、実績・担当者のコミュニケーション品質を確認することをお勧めします。
特にMOPH製品登録においては、代理人が提出書類の不備を事前に指摘できるかどうかで審査期間が数カ月単位で変わることがあります。コスト面だけで代理人を選ぶことは推奨されず、専門性と実績を優先した選定が結果的に時間とコストの節約につながります。
スケジュール管理と並行手続きの設計
カタール進出では、MOCI商業登記・MOPH製品登録・ビザ申請・銀行口座開設など複数の手続きが異なる機関に対して同時並行で進むケースがほとんどです。各手続きの依存関係(どの手続きが完了してからでないと次が進めないか)を事前に把握し、クリティカルパスを設計することが不可欠です。
一般的に時間がかかる手続きはMOPH製品登録(数カ月〜1年程度)であるため、これを最優先で着手し、会社設立・銀行口座開設・ビザ申請を並行して進める段取りが効率的です。
コスト構造の事前試算
カタール進出にかかるコストは、政府手数料・代理人費用・書類翻訳・法律顧問費用・オフィス賃料・駐在員コストなど多岐にわたります。政府手数料は申請種別・法人規模によって異なりますが、公式サイト等で確認できる場合は事前に把握しておくことが重要です。代理人費用は交渉による部分が大きく、相場の確認と複数社見積もりの取得が望ましいです。
初期投資が見えにくい費用として、MOPH製品登録の審査期間中の維持費(オフィス賃料・人件費)が挙げられます。製品登録が完了するまで販売収入がゼロという状況が続くケースもあるため、資金計画においてこの期間を十分に見込んでおく必要があります。
| コスト項目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| MOCI登記手数料 | 会社形態・資本金規模に応じて変動 | 公式ポータル(Sijilat)で確認可能 |
| MOPH製品登録費用 | 製品カテゴリー・品目数に応じて発生 | 代理人費用は別途 |
| 現地代理人・コンサル費用 | サービス内容・期間によって大きく異なる | 複数社見積もりを推奨 |
| 書類翻訳・公証費用 | アラビア語翻訳・現地公証役場での認証 | ページ数・書類種別により変動 |
| オフィス賃料 | ドーハ市内エリアにより価格差が大きい | バーチャルオフィスが認められる場合もある(QFC等) |
| 就労ビザ・駐在員コスト | ビザ申請手数料・生活費・現地給与 | 現地採用で補う場合は採用コストが別途発生 |
カタール進出のまとめと次の一歩
カタールへの外資参入は、規制当局が複数存在し手続きが複層的であるため、全体像を正確に把握したうえで段取りを設計することが成功の前提条件となります。本記事で解説した内容を要点として整理すると、以下のようになります。
- 会社設立・商業登記はMOCI(商業工業省)が窓口。外資100%設立は投資認可が条件
- 医薬品・化粧品・食品・医療機器の製品販売にはMOPH(保健省)への製品登録が必須
- 金融・コンサル・IT等のサービス業はQFC(カタール金融センター)が外資100%設立の有力経路
- 外資100%認可の申請・投資優遇インセンティブはIPA Qatarが窓口
- 手続きは複数の機関に対して並行して進める必要があり、スケジュール管理が重要
- 現地代理人・パートナーの選定が手続きの進捗と品質を大きく左右する
- ハラル対応は食品・サプリメント・一部化粧品では事実上の必須要件
カタール市場は規模こそ大きくありませんが、一人当たりの購買力と市場の安定性は中東でも高く、GCC地域への足がかりとして位置付ける日本企業も増えています。製品カテゴリーと事業形態に応じた規制当局の特定、そして信頼できる現地代理人の選定から始めることが現実的なファーストステップとなります。
国際ビジネス連結機構では、中東市場・ドバイ市場を含む海外進出の実務支援に取り組んでいます。カタールを含む中東での事業展開について情報収集の段階から相談することが可能です。
- カタール・中東市場への進出を検討し始めた日本のメーカー担当者・経営者
- 規制当局の手続きを整理したうえで、次のアクションを明確にしたい方
- 現地パートナー・代理人選定の判断基準について情報収集している方
国際ビジネス連結機構について
よくある質問
カタールで化粧品を販売するにはMOPH登録が必ず必要ですか?
カタール国内で化粧品を販売するためにはMOPH(保健省)のDrug and Chemical Control Department(DCCD)への製品登録が原則として必要とされています。現地代理人を通じてMOPH Drug Portalから申請を行います。審査には数カ月〜1年程度かかるケースもあるため、早期に着手することが重要です。
カタールへの外資100%での会社設立は可能ですか?
外国投資法(Law No.1 of 2019)の施行により、一定の条件・投資認可を得た場合には外資100%での会社設立が可能となっています。IPA Qatar(投資促進局)への申請・審査が前提条件となります。また、QFC(カタール金融センター)を利用する場合は、金融・コンサル・IT等のサービス業に限り、認可プロセスを通じて外資100%設立が可能です。
QFCとMOCI登記はどのように使い分ければよいですか?
QFCは金融・コンサルティング・IT・プロフェッショナルサービスを主事業とする企業向けの特別枠組みで、英国法ベースの規制体系・低税率・外資100%保有が特徴です。一方、製品の製造・輸入販売・小売を主事業とする場合はMOCI登記が基本となります。事業内容がQFC対象業種に該当するかどうかを事前に確認したうえで、最適な枠組みを選択することをお勧めします。
ハラル認証はカタール市場参入に必須ですか?
食品・サプリメント・一部の化粧品については、ハラル認証が事実上の必須要件となっているケースが多いです。カタールにはQatar General Organization for Standardization(QS)によるハラル基準が存在します。日本国内での認証取得または現地認証機関での対応が必要となるため、製品開発・輸出計画の早い段階から認証取得の要否を確認することが重要です。
カタール進出にかかる期間の目安を教えてください。
手続きの種類・業種・書類の準備状況によって大きく異なります。MOCI商業登記は1〜3カ月程度が一般的な目安とされています。
MOPH製品登録は製品カテゴリーによって数カ月〜1年以上かかるケースがあります。全体的なスケジュールとしては、準備開始から販売開始まで1〜2年を見込んだ計画が現実的です。
並行手続きの設計と現地代理人との連携が期間短縮の鍵となります。
