ハラル認証を取ろうと調べ始めると、認証機関の名前がいくつも出てきます。ここで最初に押さえるべきなのは、ハラル認証は世界共通の1つの資格ではないという点です。認証を出す機関は国や地域ごとに異なり、ある国の認証が別の国でそのまま通用するとは限りません。
つまり「まずハラル認証を取る」ではなく、「どの国で売るかを決めてから、その国で通用する認証を取る」という順序になります。本記事では、この前提を踏まえたうえで、対象になる製品、取得の手順、費用と期間の考え方、そして実務でつまずきやすい原料の問題を整理します。
こんな方にオススメ
- ●東南アジアや中東のムスリム市場へ食品・化粧品を出したいメーカーの方
- ●ハラル認証を取るよう取引先から求められ、何から手をつけるか迷っている方
- ●自社製品が認証の対象になるのか、原料から確認したい品質保証担当の方
この記事を読むと···
- ●認証機関が国ごとに異なる理由と、相互承認を確認すべき理由がわかる
- ●取得までの手順と、審査で見られる範囲が把握できる
- ●原料・製造ラインで問題になりやすい箇所が事前に洗い出せる
ハラルとは何か——禁じられているものを避ける仕組み
ハラルはイスラム法において許されたものを指し、その反対がハラムです。食品であれば豚とその派生物、適切な方法で処理されていない食肉、飲用のアルコールなどがハラムにあたります。
認証は、製品がこれらを含まず、かつ製造・流通の過程でも混入していないことを、第三者が確認して証明する仕組みです。重要なのは、確認の対象が最終製品だけではないという点です。
| 確認される範囲 | 見られるもの |
|---|---|
| 原材料 | 全成分とその由来。動物由来かどうか、アルコールを使用しているか |
| 製造工程 | ハラムな原料を扱うラインとの共用の有無、洗浄の方法 |
| 保管・物流 | ハラムな製品と一緒に保管・輸送していないか |
| 管理体制 | 社内に責任者を置き、手順を文書化して運用しているか |
POINT
「豚を使っていないから大丈夫」とはなりません。乳化剤・ゼラチン・酵素・香料など、由来が分かりにくい原料が問題になることが多く、また同じ製造ラインでハラムな製品を作っていれば、それ自体が論点になります。原料表ではなく、原料の「由来」まで遡って確認してください。
認証機関が国ごとに違うという前提
ハラル認証を出す機関は、国や地域によって異なります。マレーシアやインドネシアのように政府機関が関与して制度を運用している国もあれば、民間の認証団体が複数存在する国もあります。日本国内にも複数の認証団体があります。
ここで実務上決定的に重要なのが、相互承認の有無です。
| 状況 | 結果 |
|---|---|
| 輸出先の当局が認めている機関の認証を取得 | その国で有効。輸入・販売に使える |
| 認められていない機関の認証を取得 | その国では通用せず、取り直しになる |
CAUTION
日本国内で認証を取得したものの、輸出先で認められておらず取り直しになる、というのは実際に起きる失敗です。認証機関を選ぶ前に、必ず「輸出先の当局がどの機関を認めているか」を確認してください。認証団体に直接、その国での有効性を書面で確認するのが確実です。
国ごとの制度の詳細は、インドネシア進出の方法と費用|ムスリム市場参入・ハラル認証の取り方でも扱っています。
対象になるのは食品だけではない
| 分野 | 認証が問題になりやすい理由 |
|---|---|
| 食品・飲料 | 原料の由来、アルコールの使用、食肉の処理方法 |
| 化粧品 | 動物由来成分、エタノールの使用、原料の製造工程 |
| 医薬品・サプリメント | カプセル(ゼラチン)、賦形剤の由来 |
| 食品添加物・原料 | 最終製品メーカーから認証を求められる |
| 物流・保管 | ハラム品との分離が求められる場合がある |
自社が最終製品メーカーでなくても、取引先から認証を求められることがあります。サプライチェーン全体で確認が行われるためです。
取得までの手順
| 段階 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 1. 販売先の確定 | どの国で売るかを決める | ここが決まらないと認証機関を選べない |
| 2. 認証機関の選定 | その国で有効な機関を確認して選ぶ | 相互承認の有無を書面で確認する |
| 3. 原料の棚卸し | 全原料の由来を遡って確認する | 原料メーカーからの証明書が必要になる |
| 4. 製造体制の確認 | ライン共用・洗浄・保管の運用を整理する | 専用ライン化や洗浄手順の追加が必要になる場合がある |
| 5. 社内体制の整備 | 責任者の設置と手順の文書化 | 審査で確認される |
| 6. 申請・書類審査 | 申請書と資料一式を提出する | 原料証明の不足で止まることが多い |
| 7. 現地審査 | 工場での確認を受ける | 指摘事項への対応期間を見込む |
| 8. 認証取得・維持 | 有効期限があり、更新審査を受ける | 処方・製造所の変更時は届出が必要 |
INFO
期間と費用は、製品の種類、原料の数、工場の状況、認証機関によって大きく変わります。特に原料の由来確認に時間がかかるため、スケジュールは原料の数から逆算してください。既に認証取得済みの原料に切り替えられるかを検討すると、期間を圧縮できる場合があります。
実務でつまずく場所
原料メーカーが証明書を出せない
由来を証明する資料を求めても、輸出を想定していない原料では用意されていないことがあります。この場合、原料の切り替えを検討することになります。認証取得済みの原料に置き換えられるかを早い段階で調べておくと、後戻りが減ります。
製造ラインの共用
同じラインでハラムな原料を扱っている場合、洗浄手順の確立や、時間帯を分ける運用、場合によっては専用ライン化が求められます。設備投資の判断が必要になることもあるため、認証の検討と並行して製造側と話を進めてください。
取得後の変更管理
認証には有効期限があり、更新が必要です。また処方の変更、原料の変更、製造所の変更があった場合は、その都度の手続きが求められます。取得して終わりではなく、維持する運用を社内に組み込んでください。
ハラムになる原料の具体像
「豚とアルコールを避ければよい」という理解では、審査は通りません。実務で問題になるのは、名称からは由来が分からない原料です。
動物由来かどうかが分かりにくい原料
| 原料 | 何が問題になるか |
|---|---|
| ゼラチン | 由来動物と、その動物の処理方法が問われる。カプセル・グミ・ゼリーで使用 |
| 乳化剤・界面活性剤 | 動物性脂肪由来のものがある。加工食品・化粧品に広く使用 |
| 酵素 | 製造に動物由来の培地が使われている場合がある |
| ショートニング・油脂 | 原料油の由来が問われる |
| L-システイン | 毛髪・羽毛由来のものがある |
| コラーゲン・エラスチン | 由来動物の確認が必要 |
| グリセリン | 動物性・植物性・合成のいずれか |
| 香料のキャリア | エタノールが使われている場合がある |
アルコールの扱い
飲用のアルコールが禁じられているのは明確ですが、製造工程での使用や、香料の溶媒として微量に残るものの扱いは、認証機関や国によって判断が分かれます。「一切使用不可」とする立場もあれば、残存量や由来によって認める立場もあります。
自社製品で使用している場合は、認証機関を選ぶ段階でその方針を確認してください。後から判明すると、処方の変更が必要になります。
CAUTION
原料表の成分名だけを見て「動物由来ではない」と判断するのは危険です。同じ成分名でも、製造方法によって由来が変わるものがあります。原料メーカーに対して「この成分の由来は何か」を書面で確認し、証明書を取得してください。口頭確認では審査に使えません。
製造ラインの共用をどう解決するか
原料をすべて切り替えても、製造現場でハラムな製品と設備を共用していれば、それ自体が論点になります。対応の方法は複数あり、コストと実現性が大きく異なります。
| 方法 | 内容 | コスト | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 専用ライン化 | ハラル製品専用の設備を設ける | 高い | 最も確実だが設備投資が必要 |
| 専用工場・区画 | 建屋や区画を分ける | 非常に高い | 大規模な生産量が前提 |
| 時間帯の分離+洗浄 | 製造の順序を決め、切り替え時に定められた洗浄を行う | 中程度 | 洗浄手順の妥当性を示す必要がある |
| 委託先の変更 | 既にハラル対応している工場へ生産を移す | 中程度 | 品質・コスト・数量の条件が合うか |
| 原料の全面切り替え | 工場全体でハラムな原料を使わない | 工場の事業内容による | 他製品への影響が大きい |
中小規模の生産量では、専用ライン化の投資を回収できないことがあります。その場合、時間帯の分離と洗浄手順の確立、あるいは既にハラル対応している委託先への生産移管が現実的な選択肢になります。
保管と物流も対象になる
製造だけでなく、原料や製品の保管、輸送の段階でもハラムな品との分離が求められる場合があります。自社倉庫だけでなく、委託している物流事業者の運用も確認の対象になります。
- ●原料倉庫でハラムな原料と同じ区画に置いていないか
- ●製品倉庫での区分が明確か
- ●輸送時に混載していないか
- ●輸出先での荷扱いに問題がないか
社内に必要な管理体制
審査では、製品や設備だけでなく、それを継続的に管理する仕組みも確認されます。書類を揃えただけでは通りません。
求められる要素
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 責任者の設置 | ハラル管理の責任を負う担当者を社内に置く |
| 手順の文書化 | 原料の受け入れ、製造、洗浄、保管の手順を文書にする |
| 原料の管理 | 使用する原料の一覧と、それぞれの由来証明を管理する |
| 記録の保存 | 製造記録、洗浄記録、原料の受け入れ記録 |
| 教育 | 関係する従業員への周知と教育の実施 |
| 内部確認 | 定期的に自社で運用状況を点検する |
POINT
審査でつまずくのは、多くの場合「書類はあるが運用されていない」状態です。手順書が現場の実態と合っていない、記録が途切れている、担当者が手順を把握していない、といった点が指摘されます。認証取得を目的にした一時的な整備ではなく、日常の運用に組み込むことが前提になります。
費用と期間の考え方
金額と期間は、製品の種類、原料の数、工場の状況、認証機関によって大きく変わります。一律の相場を示すことはできませんが、何が変動要因になるかは整理できます。
| 変動要因 | 影響 |
|---|---|
| 原料の数 | 由来確認が必要な原料が多いほど期間が延びる |
| 原料メーカーの対応力 | 証明書が既にあるか、一から依頼するかで大きく変わる |
| 製造ラインの状況 | 専用化が必要なら設備投資が発生する |
| 製品の数 | 同一ラインの複数製品をまとめると効率が上がる |
| 認証機関 | 機関ごとに手数料と審査の進め方が異なる |
| 現地審査の回数 | 指摘事項が多いと再審査が発生する |
期間を短縮する方法
- ●既に認証を取得している原料に切り替える
- ●原料の由来確認を、認証機関の選定と並行して進める
- ●製造ラインの整備を先に着手しておく
- ●複数製品をまとめて申請する
- ●同じ工場で過去に認証実績がある場合、その記録を活用する
INFO
最も時間がかかるのは原料の由来確認です。ここを認証機関の選定後に始めると、全体が後ろ倒しになります。輸出を検討し始めた段階で、使用している全原料のリストを作り、証明書の有無を洗い出しておいてください。この作業は認証機関が決まっていなくても進められます。
認証を取ったあとに起きること
有効期限と更新
認証には有効期限があり、期限前に更新の手続きが必要です。更新時にも審査が行われるため、日常の運用記録が残っていることが前提になります。
変更が生じたとき
| 変更 | 必要な対応 |
|---|---|
| 処方の変更 | 認証機関への届出。再審査が必要になる場合がある |
| 原料の供給元の変更 | 新しい原料の由来証明を提出する |
| 製造所の変更 | 新しい工場での審査が必要 |
| 製品の追加 | 追加分の申請 |
| 責任者の交代 | 届出と、後任への引き継ぎ |
認証を市場でどう使うか
認証の取得は販売の前提条件であって、それ自体が売れる理由にはなりません。現地の消費者にとって認証は「あって当然」のものであり、無ければ選択肢に入らないというだけです。
取得後は、価格、流通チャネル、現地での認知といった通常のマーケティング課題に向き合うことになります。認証取得を目的化せず、その先の販売計画と併せて設計してください。
- ムスリム市場へ商品を投入する段階に来ており、認証と現地の商流に関する一次情報が必要な企業
- 展示会・商談ツアーを通じて、現地バイヤー・キーパーソンと直接接点を持ちたいメーカー・ブランド
- 代行や情報提供サービスではなく、自社が判断・行動できる「機会と場」を求めている海外事業担当者
当機構では、会員が台湾向けライブコマース(累計100回・GMV4億円超の実績)・現地商談ツアー・展示会という実際の取引の場に参加することで、現地の税関実務・バイヤー慣行・規制変化といった一次情報に直接触れる機会を用意しています。
当機構が提供するのは「機会」であり「代行」ではありません
よくある質問
ハラル認証は世界共通ですか。
共通ではありません。認証を出す機関は国や地域ごとに異なり、相互承認の関係も一律ではありません。輸出先の当局が認めている機関を選ぶ必要があります。
日本国内で認証を取れば海外でも使えますか。
輸出先がその認証機関を認めている場合に限ります。認められていなければ現地で取り直しになります。認証機関を選ぶ前に、必ず輸出先での有効性を確認してください。
豚由来の原料を使っていなければ認証は不要ですか。
認証が求められるかどうかは、輸出先の制度と取引先の要求によります。また豚を使っていなくても、由来が不明な原料や製造ラインの共用が論点になるため、確認は必要です。
化粧品にもハラル認証は必要ですか。
市場と取引先によります。動物由来成分やエタノールの使用が論点になるため、食品と同様に原料の由来確認が必要になります。
認証を取れば必ず売れますか。
認証は販売の前提条件であって、売れる理由にはなりません。現地の嗜好、価格、流通チャネルの確保は別の課題として設計してください。
原料の由来はどうやって確認すればよいですか。
原料メーカーに対して書面で確認し、証明書を取得します。口頭での確認は審査に使えません。成分名が同じでも製造方法によって由来が変わるものがあるため、成分表だけでの判断は避けてください。
製造ラインを専用化しないと認証は取れませんか。
必ずしも専用化が必要とは限りません。時間帯を分ける運用と、定められた洗浄手順の確立で対応できる場合があります。ただし手順の妥当性を示す必要があります。
アルコールは一切使えませんか。
製造工程での使用や微量の残存の扱いは、認証機関や国によって判断が分かれます。使用している場合は、認証機関を選ぶ段階で方針を確認してください。
認証取得までどのくらいかかりますか。
原料の数と、原料メーカーの対応状況に大きく左右されます。最も時間がかかるのは原料の由来確認です。輸出を検討し始めた段階で原料リストを作り、証明書の有無を洗い出しておくと短縮できます。
物流や倉庫も認証の対象になりますか。
保管や輸送の段階でもハラムな品との分離が求められる場合があります。自社倉庫だけでなく、委託先の物流事業者の運用も確認の対象になり得ます。
認証を取れば売れますか。
認証は販売の前提条件であって、売れる理由にはなりません。現地の消費者にとっては「あって当然」のものです。取得後は価格・流通・認知という通常の課題に向き合う必要があります。